東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime13Number2



海外モバイル展示
国際共同展、「エチオピア、人類進化タイムライン」

諏訪 元(本館教授/形態人類学)
 東京大学総合研究博物館では、モバイルミュージアムの開発研究を様々に行っている。一方、従来から、先端的なマクロ研究をなるべく独創的に公開する実験展示を開催してきた。今回は、マクロ先端展から「モジュールユニット」を抽出し、それをモバイル的に展開することで、国際共同展を実施してみた。
 こうした研究成果の発信型のモバイル展は、大学の公開活動における、新たな機能、切り口の一つと考えている。即ち、実験展示で自在に表現を磨く。そして、その作品を縦横無尽に展開させる。移動展示と違うのは、あくまでもコンパクトな要素が基礎で、ミニモデュール一つでも展示になることである。実際、今回の展示も、もとといえば、ミニモデュール一つだけのモバイル展をエチオピアで実現することを目的としていた。一方、複数のモデュールを組み合わせ、あるいは原型から拡大版へと展開してもよい。このコンセプトを追求すれば、当館で行う実験展示は、学術ならびにデザイン性の高い、オリジナルな展示モデュールの創生の場となる。実は、本館の洪特任教授と一緒に「アフリカの骨、縄文の骨―遥かラミダスを望む」展をつくりながら、こうした構想をおぼろげに思い描きながら、国内のモバイル展に刺激され、実現に持ってゆく運びとなった。
 エチオピアの人類化石は、人類史全ての進化段階を網羅し、一国としては最多の11種からなる。次がケニアの9種、その次がやはり地溝帯にあるタンザニアと石灰岩堆積物が豊富な南アフリカが6、7種ずつと、アフリカ諸国がつづく。エチオピアの人類化石の中でも、最も有名なのが、「ルーシー」のあだ名で知られる、320万年前のアウストラロピテクス・アファレンシスの化石骨だろう。「ルーシー」が発見されたのは34年前。当時はエチオピア産の人類化石も、まだ5種目だった。その後の目覚しい調査の進展により、現在は、440万年前のラミダス、570万年前のカダバなどが知られている。昨年はそれらに先立つ、1000万年前のアフリカ類人猿化石、チョローラピテクスを発見し、発表することができた。
 アフリカこそが「人類の揺りかご」と言われるが、化石は限られており、人類の起源前後からホモ・サピエンスの出現までの全容を、一国だけで描くことのできる唯一の国がエチオピアなのである。しかし、今までは、エチオピア国立博物館においてでさえ、こうした世界的化石のごく一部のみが展示公開されてきた。その理由は、比較的最近発見された化石資料は研究途上であるため、一般公開されることが少ないことと、唯一無二の世界遺産級の化石標本の実物展示は望ましくなく、レプリカ標本の効果的な展示表現やデザイン的工夫が必要となるからである。
 エチオピア国立博物館と当館の今回の共催プロジェクトは、いくつかの難関を突破し、アディスアベバにあるエチオピア国立博物館にて、8月6日に開催された。8月中になんとか開催でき、関係者一同安堵した。なぜならば、本プロジェクトは当初、「ミレニアム特別展」としての開催であり、モハムドディルディル・エチオピア文化観光大臣と駒野欣一・在エチオピア日本大使の開幕によったからである。
 実は、独自のユリウス暦を使用しているエチオピアでは、昨年(2007年9月から2008年9月まで)が2000年、ミレニアムの年だったのである。そこで、我が「アフリカの骨、縄文の骨、遥かラミダスを望む」展で開発したミニモデュールを拡張し、全人類進化タイムラインを展示する運びとなった。エチオピアでも、他のどの国でも、大英博物館でも米国スミソニアン博物館でもなしえなかった、最新の発見を満載した人類進化展である。「ルーシー」の展示は多くの博物館で見ることができるが、エチオピアの人類化石のラインアップの全貌が公開されるのは、今回が世界初である。
 当初は、「ミレニアム特別展」としての開催であるが、常設展の一部としてしばらく継続される見通しである。今後、エチオピア国立博物館を訪れる、世界中の多くの観覧者にみていただけることを楽しみにしている。
 本展の実施と開催にあたっては多くの皆様のご支援をいただいたことを記し、ここに感謝申し上げる。また、協賛くださった欧州三井物産株式会社、エチオピア航空、日本航空、テスコ社、丹青社、モエンコ社、クリーブランド自然史博物館、カリフォルニア大学バークレー校人類進化研究センター、その他関係者各位に厚く御礼申し上げる


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 図1 展示場風景


 図2 2007年に発見された1000万年前のチョローラピテクスの歯、展示初公開


 図3 コンソ遺跡群出土のボイセイ猿人の頭骨(140万年前)(展示初公開)


 図4 最古のホモ・サピエンス、ヘルト人(16万年前)のCTレプリカ