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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime12Number2

隕石から覗く太陽系

橘 省吾 (本学理学系研究科助教/惑星科学)


 太陽系は今からおよそ45 億6千万年前に誕生したと言われている。その後、数百万年ほどの内に塵から小さな天体が産まれ、1億年後には惑星が誕生していたようだ。なぜそんなことがわかるのだろうか。謎を解く鍵は隕石にある。
 隕石とは、宇宙から地球に落ちてきた岩石のことである。これまで人類が宇宙空間に採取に出掛けて試料を持ち帰ったのは、月の岩石(アポロ探査)とビルト第二彗星から放出された塵(スターダスト探査)のみで、我々の手にある地球外物質の多くは、太陽系空間を漂う岩石のかけらや塵がたまたま地球の重力にとらえられて落ちてきたものである。隕石の多くは、太陽系の中でも火星と木星の間に存在する小天体密集地域(小惑星帯)に起源を持つ小惑星のかけらであると考えられている。これは、落下が目撃された隕石の軌道や、隕石に赤外線をあてたときの反射度の波長による違い(赤外線反射スペクトル)が小惑星のあるグループの反射スペクトルに類似していることなどに基づいている。昨年、日本の惑星探査機「はやぶさ」が訪れた小惑星イトカワ表面の元素組成分析データも、普通コンドライトと呼ばれる隕石のグループとの類似が指摘されており、小惑星が隕石のふるさとであることの新たな証拠となっている。
 地球やその他の惑星、多くの衛星は天体内部や表面でのさまざまな地質活動によって、太陽系初期のみならず天体誕生時の情報もほとんど更新されてしまっているのに対して、小惑星はその小さなサイズのため熱が逃げやすく、温度があまり上がらなかったか、温度が上がっても地質活動の期間が短かったと考えられる。そのため、小惑星には太陽系初期に起こった様々な物質進化過程の記録が凍結されており、小惑星のかけらである隕石は太陽系の初期進化を理解するためには必要不可欠な研究対象となっている。ここで太陽系誕生の年代と隕石とが結びつく。放射性元素の壊変を利用した年代測定によって、多くの隕石が45億6千万年程度の年代を示し、また、炭素質コンドライトと呼ばれる隕石に含まれるアルミニウムやカルシウムに富んだ鉱物の集合体が45億6720万年程度の年代(誤差60万年)を示すことが知られており(現在知られている太陽系最古の年代値)、これらの事実から太陽系誕生がその頃であったと考えられているのである。
 隕石から覗く太陽系の様々な姿を紹介しつつ、隕石にも色々な種類があることを紹介していこう。隕石は岩石成分と金属鉄成分の割合から、石質隕石、石鉄隕石、鉄隕石(隕鉄)の3種類に大別され、石質隕石はコンドライト、エコンドライトの2種類に分類される。地球への落下頻度は、コンドライト86%、エコンドライト8%、石鉄隕石1%、鉄隕石5%程度である。
 地球に降ってくる隕石の中で最も多いタイプであるコンドライトは岩石成分が主であるが、金属鉄や硫化鉄も含む。コンドライトの元素組成を調べると、太陽の大気の化学組成とよく一致する。太陽は太陽系の全質量の99.9%以上を占めるため、太陽の化学組成は太陽系の化学組成と等しい。すなわち、コンドライトは太陽系の化学組成とほぼ等しい組成を持つことを意味し、コンドライトはもととなった天体(母天体)での分化など大規模に元素が分別する過程を経験していない始源的な隕石であることが示唆される。このため、コンドライトは未分化隕石に分類され、その化学組成や構成物質には小天体誕生以前の初期太陽系での物質進化過程が反映されている。例えば、先に述べた太陽系最古の年代を示すアルミニウムやカルシウムに富んだ鉱物の集合体(CAIと呼ばれる)は、アルミニウムやカルシウムといった揮発性の非常に低い(高温のガスから最初に固体化する)元素を主成分としており、初期太陽系のガスの中で1000℃を越えるような高温状態でつくられたことを示している。コンドライトには、他にコンドリュールと呼ばれる直径1mm弱の岩石質の球状物質が多く含まれている(図1)。コンドリュールはその丸い形状や内部組織から、岩石が一旦融けて速やかに冷却されて形成されたと考えられている。コンドリュール一粒一粒が初期太陽系に浮かんだマグマの粒だったのだ。コンドリュールの年代測定から、コンドリュールはCAI 形成以降、およそ200 万年間にわたって、断続的につくられ続けたことが示唆されているが、どうしてこのようなマグマの粒ができたのだろう か、その加熱の熱源はなんだったのだろうか。初期太陽系での衝撃波や雷による加熱、原始太陽の近くでの太陽光による加熱などが提案されているが、隕石学最大の謎のひとつとして未解決のまま残されている。
 CAIやコンドリュール、金属鉄、硫化鉄などの間を埋めるのは、数μm以下の微粒子でマトリクスと呼ばれる。マトリクスにはコンドリュールやCAIの破片も含まれるが、マトリクス全体の化学組成は揮発性元素に富み、コンドリュールやCAIと合わせたコンドライト全体の化学組成として、太陽系元素存在度に近くなるため、その起源にコンドリュールやCAI形成が関連している可能性が高いのではないかと考えられる。マトリクスを構成する物質の中で非常に僅かにしか含まれていないが特筆すべきものが存在する。それは、太陽系の平均的同位体組成とはまったく異なる同位体組成を持つ微粒子(nm〜μmサイズ)のことである。この奇妙な同位体組成を持つ粒子は、太陽系誕生以前に、太陽系とは異なる同位体組成を持つどこかの星の周りでつくられたと考えられ、太陽系誕生以前の記憶を持つ粒子ということで、プレソーラー粒子と呼ばれている。プレソーラー粒子として、ケイ酸塩、酸化物、炭化物、窒化物、グラファイト、ダイアモンドなどがこれまで発見されている。同位体組成に基づき、プレソーラー粒子は単一の恒星からもたらされたものではなく、複数の恒星に起源を持つと考えられている。宇宙での星が死ぬときに自身を宇宙空間にまき散らし、そこから新しい星が産まれるという恒星の輪廻がおこなわれているが、太陽系も過去の星々から材料物質を引き継ぎ、誕生したことを示す強い証拠となっている。
コンドライトは太陽系初期につくられた多様な物質が集まった宇宙の堆積岩と言えるが、エコンドライトは溶融を経験した隕石で、地球で言うところの火成岩である。エコンドライトは溶融の結果、岩石成分と金属鉄成分が比重の違いで分離した天体(分化天体)の岩石成分が地球に飛来したものであると考えられる。鉄隕石は分化天体の金属鉄成分に対応し、石鉄隕石は分化天体の岩石成分と金属鉄成分が混合されたものと考えられる。エコンドライト、石鉄隕石、鉄隕石は分化隕石と分類され、初期太陽系での小惑星が経験した加熱・冷却の歴史および分化過程が記憶されている。溶融の原因として、小惑星の場合には短寿命の放射性核種(26Alなど)の壊変に伴う壊変熱が候補として一般には考えられている。
溶融を経験した天体は小惑星だけではない。より大きな惑星や衛星は巨大衝突時の重力エネルギーの解放や内部での放射性核種の壊変によって、初期の大規模な溶融を経験し、その後も天体によっては火山活動などで岩石の溶融が起こっている。このような大型天体から飛来した隕石も実は存在する。火星から来た隕石、月から来た隕石が百個程度存在するのだ。どちらもエコンドライトである。それらの隕石がなぜ火星や月から来たと判断できるのかは、惑星探査と関係がある。どちらの天体にも探査機が降り立ち、月はアポロ宇宙船の宇宙飛行士によって岩石が持ち帰られ、火星は探査機バイキングが大気の組成を調べていたため、月隕石の場合は岩石の類似性から、火星隕石の場合には隕石にわずかに含まれる希ガスの同位体組成が火星大気のそれと類似していることなどから、それぞれ月や火星から飛来したと考えられている。火星からは探査機が表面の岩石の化学組成を調べ、火星大地の写真を撮影し、それらのデータが送られてきているが、実際の岩石試料となると火星隕石しか私たちは持っておらず、将来のサンプルリターン探査までは火星の火成活動や内部構造を推定するための唯一の物的証拠である(図2)。火星隕石の中にはおよそ2億年につくられたものもあり、火星では少なくとも2億年前まではマグマがつくられていたことなどが明らかになっている。
 火星や月からの隕石が百個程度と数の話が出てきたが、日本が世界最大の隕石保有国であることはあまり知られていないかもしれない。極地研究所には16700個もの隕石が保管されている。極地と隕石の結びつきにピンと来られないかもしれないが、南極は隕石の宝庫なのだ。南極大陸の一部地域には一面の氷の上に隕石が点在していることが知られている。これは南極大陸に落下した隕石が氷床の流動によって、その地点へと運ばれているためで、南極越冬隊の隕石採集チームがその地域をスノーモービルで走りながら、落ちている隕石を拾い集めてくる(図3)。南極での隕石採集は、1969年に日本の調査隊が9個の隕石をやまと山脈周辺で発見したことに端を発している(余談だが、1969年は惑星物質科学にとって重要な年である。アポロが月に到達したのも、CAIを含むアエンデ隕石や隕石有機物研究の端緒となったマーチソン隕石の落下もこの年である)。現在ではアメリカや他の国も隕石探査をおこなっており、南極で発見された隕石の総数は3万を優に超える。筆者は南極での隕石探査に参加したことはないが、一度自らの手で隕石を拾い上げてみたいという思いは強い。近年、南極以外での発見数が増えているのが、砂漠隕石である。砂漠も南極同様に岩石が落ちていることが珍しいため、落ちている岩石が隕石である確率は高い。しかも、長期間氷漬けになっている南極隕石とは違い、乾燥した砂漠の隕石は風化の程度が小さく、隕石の保存状態は良い。
 隕石を紹介しながら、隕石から太陽系の姿を少しだけ覗いてきた。誕生したばかりの太陽系では揮発性の低い元素ばかりの鉱物集合体がつくられたり、マグマの粒ができたりするほどの高温状態があったこと、高温状態を生き延びたプレソーラー粒子がいること、小惑星の中には内部が分化するほど融けたものがあったこと、火星では最近まで火成活動があったこと。隕石は実に色々な太陽系の姿を私たちに見せてくれる。最後に、筆者が最近、隕石から覗いた太陽系誕生の姿を紹介して拙文を終わりにしたい。
 放射性核種の中でも寿命が短く、過去には存在したが今は存在しないものを消滅核種と呼ぶ。コンドライトの同位体分析から、誕生したての太陽系には消滅核種である60Fe(最も多く存在する安定な鉄の同位体56Feより中性子が4つ過剰に存在する核種)が豊富に存在したことがわかってきた。60Feは超新星爆発でのみ効率的につくられる核種であるため、初期太陽系における60Feの存在は、太陽系が誕生した環境では近くに超新星爆発を起こすような巨大星が存在したことを示唆するものである。巨大星の周りで太陽のような恒星が誕生することは、宇宙ではなんら珍しくない。冬空に輝くオリオン座のベルトの下辺りにぼんやりと光るオリオン星雲をご存知の方もおられるだろう。オリオン星雲は恒星が集団で誕生している領域で、そこには若い巨大星も複数含まれている(図4)。太陽系もオリオン星雲のような集団的星形成領域で産まれた可能性が高いのである。
 かつて、地球は宇宙の中心であると位置づけられていた。その後、地球は普通の恒星である太陽の周りを回るひとつの惑星であることがわかった。隕石から覗いた太陽系誕生環境もまたこの宇宙においては一般的な星形成環境で、太陽系はどうやら宇宙ではありふれた存在らしい。では、生命を育む地球が産まれたことや太陽系に色とりどりの多彩な惑星が存在することもありふれた話なのだろうか。隕石をはじめとする地球外物質の研究から、今度はどのような太陽系の姿を覗くことができるのだろう。興味は尽きない。

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図1. Semarkona隕石(普通コンドライト)の薄片写真.
丸い形のコンドリュールを沢山含 むことがわかる.
視野約15mm.



図2 . 南極で発見された火星隕石Yamato000593.
重量13.7 kg.脇に置かれたサイコロの一辺は1 cm.
写真提供は国立極地研究所.



図3 . 南極での隕石探査.鉄隕石発見! 
写真提供は国立極地研究所.



図4. ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したオリオン星雲.