東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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ル・コルビュジェ設計のサヴォア邸の模型
(模型制作:住友恵理、前川綾音、1/100、2007年3月)



展示室の配置概念図。ラボデスクで制作された建築模型が
3つのカテゴリ別に配置される(配置は徐々に変化する)


展示室内のラボデスク。ここで模型が制作され、レクチャ
やワークショップ等のイベントが開催される。
創造再生の現場
『UMUTオープンラボ――建築模型の博物都市』展によせて  
     

 建築模型がゼロの状態からのスタートであった。正確にいえばコレクションは存在する。たとえば、本館小石川分館に展示されている東京大学逸失建築群のジョヴァンニ・サッキによる復元木工模型は傑出した作品である。建築模型の展覧会であるならば、このような既存作品を各所から集めて一堂に展示するという方法もありえるだろう。しかし、私たちは結果的に、展示物(模型)を自分たちの手で作る方向に進むことになった。本建築展の計画が具体化する前に、教養学部前期課程の学生2人がル・コルビュジェのサヴォア邸の模型を制作した。簡明な外観と複雑な内部構成をもつ近代住宅の名作を前に、学生たちは図面資料から空間を読み込み、1:100の模型を組み立てていった。模型制作を通して建築を理解するという能動的プロセスは、今回の企画構想の原型を形成した。すなわち、建築探求の現場をそのまま展示に持ち込むという考え方である。こうして、2007年末から模型制作が開始された。
  展示される建築模型は大きく3つのカテゴリに分けられる。第一に、ルーヴル美術館以降の近現代ミュージアムの模型である。アルテスムゼウムやアルテピナコテークのような古典形式に依拠した原型的ミュージアム、ホワイトキューブの美術館に代表される汎用的ミュージアム、さらには建築の固有性を高めた現代的ミュージアムなど約50作品の模型が縮尺1:300で制作される。第二に、古典から現代に至るミュージアム以外の建築の模型である。内外の著名な近現代建築が主流であるが、西洋ではギリシア・ローマ以降の、日本では伊勢神宮・浄土寺・桂離宮などの歴史建築、さらに一部アジアやイスラムの建築も扱う予定である。建築種別は住宅からオフィスまでと幅広く、縮尺は規模に応じて1:50、1:100、1:300で制作される。第三に、未来志向の提案型建築の模型である。学生による授業の課題作品や自主制作作品、東京大学教員から出品される作品、さらには来館者が徐々に生成する参加型都市模型の実験も予定している。これら3つのカテゴリによる建築模型の総数は、最終的には150を超える見通しである。
  多数の建築模型を制作・展示することで、建築の個別の存在形式と向き合いつつ、全体を俯瞰的に一覧することが可能になる。タイトルの「建築模型の博物都市」とは、模型でつくられた仮想都市を企図したものである。模型という形式に縮約された多数の建築が、現実と異なる隣接関係のもとに混在集積して理想の建築都市を展開する。それは建築家ジョン・ソーンの画工であったJ.M.ガンディが描いた模型殿堂のような光景かもしれない。博物学的な視点からは、建築の生成時期、建設場所、主要機能、形態特性、設計者といった属性別に建築を流動的に通覧することが可能である。同時に、特に提案型建築の展示においては、各人の問題意識に基づいた建築の新たな可能性を提示することが期待される。
 建築模型の大半は本学学生が中心となって制作を進めてきた。全学体験ゼミナールの履修者有志らによって建築展学生実行委員会が組織された。現時点ではメンバーの多くは建築学科と都市工学科の学生であり、最近になって教養学部前期課程の学生も加わった。さらに慶應義塾大学や桑沢デザイン研究所の学生/卒業生も加わり、参加者は他校に広がろうとしている。また、建築模型専門家の横塚和則氏と阿部貴日呼氏には助言と一部の模型制作をお願いしているほか、桑沢デザイン研究所の大松俊紀講師には授業で制作された建築家・篠原一男の住宅模型7点(1:30)を提供いただいた。総勢30人を越える人々の参加によって本展示は準備されてきた。公開開始後は、さらに多様な方々の参画を得ていくことになるだろう。
 今回の展示形式を「オープンラボ」と呼んでいる。「オープン」にはopen to public(公開)とopen end(開放端)という2つの意味が込められている。「参加自由」で「成長変化」する展示である。大学における教育研究の成果を新たな博物資源とみなし、その生成過程を公開しながら進行する動態型の展示と考えている。建築展のオープンラボでは、開催期間中も模型制作を継続する。加えて、レクチャ、ワークショップ、建築ゼミ、展示ツアー、作品発表会等のイベントを同一空間内で実施していく予定である。展示室を成果物鑑賞の場に、さらには研究・創造・交流の発生現場に仕立てあげる。展示図録を最初に発行するのではなく、ウェブサイトによる情報開示を先行してコンテンツを蓄積し、予算が許せば最後にまとめて書籍化する。
  「創造再生の現場」。これは私自身が考えてきたミュージアムの次世代イメージである。収集保存の拠点としてのミュージアムにおいて、創造再生の機能を強化すること。徐々に蓄積されるインプットに対して、新たなアウトプットの形式を模索することは、ミュージアムの使命である。本館では西野嘉章教授や洪恒夫教授を中心として、さまざまな次世代ミュージアム概念が提案されてきた。「モバイルミュージアム」は空間的な分散流動を主眼とした遊動型博物館、「ミドルヤード」は機能的な相互貫入による融合型博物館である。本展示における「オープンラボ」は時間的な継続変化を特徴とする動態型博物館といえるだろう。ミュージアムは過去に立脚しつつ、未来を見据えた現在進行形の活動機関である。
  最後に、本展示の実現に尽力してくださった関係者の皆様方に御礼を申しあげたい。特に学生諸君の熱意ある行動なくしては展示自体が成立しなかった。深く感謝の意を表します。

松本文夫 (本館特任准教授、建築・情報デザイン) 



展示会場のスタディ・モデル

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