東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
HOME ENGLISH SITE MAP













国際共同モジュール展 「ラミダス、初公開」 の開催

諏訪 元 (本館教授、形態人類学)

この度、エチオピア国立博物館の常設展内に、既存最古の人類祖先の全身に渡る化石骨、440万年前の「アルディ」(レプリカ)が展示公開された。当館によるモバイル展、「新発表のラミダス化石」を移設拡張したものであり、世界に先駆けた公開である。

アルディピテクス・ラミダス
1992年に初めて断片的な化石として発見され、1994年から97年にかけて女性の全身にわたる化石骨(通称「アルディ」)が発掘された。その後、科学誌サイエンスの2009年10月2日号に、11編の論文として、その全身像ならびに生息環境に関する研究成果が発表された。
ラミダスの骨盤には、その上方部に、アウストラロピテクスと共通する直立二足歩行への適応構造が見られる。また、頭骨においては、その底部がわずかながら短縮しており、その点アウストラロピテクス的である。さらには、断片的な化石標本をも含めると、犬歯が20個体分以上出土しているが、いずれも小型で類人猿の雄型の特徴が見られない。また犬歯小臼歯複合体の全体像は、メスの類人猿からアウストラロピテクスへの移行形を示している。以上から、ラミダスは、チンパンジーとヒトの分岐後の人類側に位置することに間違いはない。
ただし、ラミダスは、アウストラロピテクスとも後続のホモ属とも異なり、把握性の足を持ち、樹上行動への適応形質を多く保持していた。また、ラミダスにはアウストラロピテクスのような咀嚼器の発達が見られない。歯の形態と磨耗、そして安定同位体分析から、ラミダスは、アウストラロピテクスと異なりC4植物起源の食物をほとんど摂取しなかったものと思われる。豊富な古環境情報と共に総合すると、ラミダスは疎開林を中心とした比較的閉じた環境に主として生息し、サバンナの開けた環境を常習的に利用するようになったのは、アウストラロピテクス以後のことと思われる。
また、ラミダスは、チンパンジーともゴリラとも異なり、中新世の原始的な類人猿から受け継いだと思われる特徴を多く保持している。例えば、現生の類人猿に見られる腰部の短縮、上肢の発達、手足の特殊化がみられない。このことは、人類の系統がアフリカ類人猿のような懸垂木登り型、ナックル歩行型の進化段階を経ていないことを強く示唆するものである。
ラミダスと現生アフリカ類人猿の頭骨と歯の比較解析からも、現生類人猿の特殊性が浮かび上がる。ゴリラやチンパンジーは食性だけでなく、社会性においても特殊化が進んでいる可能性が高い。一方、人類の系統では、そもそも体サイズと犬歯の雌雄差が小さく、オスの攻撃性が緩和された社会性と行動様式が、早期に存在していたとの仮説を導くことができる。


人類形態研究室(諏訪研究室)のトップページへ
モバイルミュージアム(エチオピア編)のトップページへ
モバイルミュージアムの海外ネットワークのトップページへ